すまいの防犯
平成15年1月4日未明、南流山の県道沿いの無人現金支払機が建設機械で壊される窃盗未遂事件がありました。この事件は「このような犯罪がいつ私達の身の周りに起きるかわからない」ということを思い出させました。
以下に、泥棒の手口とそれに対する住まいの防犯対策を紹介します。しかし、防犯には個別の住宅の防犯対策だけでは不十分で、地域全体の防犯意識を高めることが必要です。そのようなことから隣近所の皆さんでご協力してください。
■ 防犯対策全般について
住宅に侵入してつかまった泥棒を対象とした調査での「犯行をあきらめる状況」として、住宅に侵入する時間が5分以上かかると約7割の泥棒が侵入をあきらめるとか、近所の人に声をかけられたり、ジロジロ見られると約6割の泥棒が犯行をあきらめるというものがあります。これより、住居に侵入するのに時間がかかるような防犯対策、そして「こんにちは」といつも声をかけ合える住民同士の普段の習慣が重要といえます。なお、調査では「時間がかかってもあきらめない」と答える泥棒もいて、下記に紹介する防犯対策も万全ではないことから、万が一、泥棒に侵入されても被害が少ないように家に置く現金は最小限とし、貴重品は銀行の貸金庫に預ける等することが必要です。
住居に侵入された被害の調査では、玄関からよりもバルコニーからの侵入件数が多いことから、「上の階だから安全」と考えず、バルコニーの窓の施錠もおろそかにしてはなりません。また、テレビの音などに気をとられていて侵入者に気付かず、住居内で泥棒に鉢合わせして危害を受けた事例もあることから、「在宅しているから安心」と考えず、ドア・ストッパを必ずかけるなどの日常の習慣も必要です。 |
在宅時にもドアストップを |
その他、次のような事項にご注意ください。
- ゴミ捨てなどのわずかの外出時にも施錠。
- 置き鍵(玄関近くに鍵を置くこと)はしない。
- 外出時は鍵のかけ忘れがないように確認。
-
鍵は身につけ、他人が手にできないようにする(「出先で目を離した隙に合鍵をつくられたのでは?」と考えられる事件もありますので、ご家族全員での注意が必要です)
- キーを落としたり盗まれた時は錠前ごと取り替えるようにする。
■ 各住居の防犯対策
各住居の防犯対策には玄関まわりに対するものと窓まわりに対するものがあります。以下、これについて紹介します。
玄関ドア周りの防犯対策としては、玄関扉の構造面に対するものと玄関周囲の設備面に対するものがあります。
1. 玄関扉の構造
■ 室外からかんぬきの見える構造の扉の対策
かんぬき (写真は室内用ドアで例示)
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最近の建物では少ないと思いますが、室外から扉枠と扉の間に「かんぬき」が見える扉があります(
左の写真はかんぬきの見える状態を示すため、室内用ドアで例示)。このように玄関外からかんぬきが見える構造の玄関ドアは、バールなどでかんぬき
部分を押込まれたり、ドアごと曲げられて開けられてしまいます。
このような玄関ドアの防犯対策として、かんぬき部分にバールが入らないようにするカバー(「ドア・ガードプレート」などの名称でDIY店で販売))を取り付ける方法があります。 |
■ ピッキングに強い鍵への交換
ディスクシリンダーを用いた鍵穴
(美和ロック) |
1970年代から普及した左の鍵穴のディスクシリンダーはピッキングによって簡単に開けられてしまうため、開錠に時間のかかる防犯性能の高いシリンダーへの交換は不可欠です。防犯性能の高いシリンダーとすれば、犯行中に見つかるおそれが高くなることから侵入犯は避けるようになります。
日本ロック工業会が耐ピッキング性能に優れた交換用シリンダーと
した「優良住宅用開きとびら錠等の型式認定に関する規程(CP及びCP−C錠型式認定制度)」を設けていましたが、2004年5月に廃止されました。この代わりに現在、「防犯性能の高い建物部品」目録検索システムのPDFダウンロードで一覧表を入手できます。ここに登録されたものが全てではありませんが、参考となります。 |
■ ワンドア・ツーロック化
主錠の他に補助錠を付け、鍵を2つ以上として防犯性能を高めるものです。無論、鍵は防犯性能の高いものでなければなりません。「鍵を開けて侵入」という泥棒には時間がかかることから敬遠されますし、バールで新聞受け開口部周りの金物を変形させ、内側の新聞受け箱を脱落させ、そこから手を入れて主錠のサムターンを回して侵入という手口に対しても有効な防犯対策です。補助錠の位置はドアストップより上をおすすめします。
なお、集合住宅の場合、玄関扉内側の新聞受け箱を外しているお住まいがあるかもしれませんが、室内をのぞかれない役割もありますので新聞受け箱は必ず取付けて
おいてください。
■ ドアボスの取付け
ホテルを別として日本の玄関扉は外開きのものがほとんどです。この玄関扉は丁番が外部に露出しているため、鍵がしっかりかかっていても丁番を壊してドアを外されて侵入されてしまいます。この防犯対策として丁番側の扉と扉枠にドアボスを取付ける方法があります。ワンドア・ツーロック化する時に併せて取付けを行うのがよいでしょう。
■ サムターン回し対策
「サムターン回し」は玄関ドアの内側に取り付けられた施錠用のノブ(サムターン)を玄関外から回して開錠してしまう手口
で、玄関扉の錠部分の構造によって扉の隙間から、あるいは音のしないように手動ドリルで錠の脇に穴を開け、そこに先端が90°に折れ曲がるよう細工された鉄製の棒を突っ込
んで先端をサムターンにひっかけて開錠してしまうものです。
また、ドアに設けられた新聞受けを壊したり、ドアスコープを壊して上記の開錠用の道具を使われた例もあります。
対策として一般的なサムターンではその周りにペットボトルを切ったものや市販のカバーを装着する方法が有効です。
■ ドアスコープによる防犯対策
視覚180°のドア・
スコープから見た視界 |
防犯対策としては室内側を覗かれないということも重要です。既存のドアスコープは室内が明るいと外側から20cm位離れた位置から室内の状況が見えてしまいます。このため、防犯上、必ず、室内側にドアスコープからの視界を遮る目隠しを取り付ける必要があります。また、このドアスコープの視界は140°位で死角があります。
死角が生じない視覚200°で目隠しをつけなくても室内が見えないドアスコープもありますので、これへの交換
は、例えばドアフォンの呼び出しがあってドアスコープ越しに外を見ると誰もいないためにドアを開けたら強盗の被害に遭うということも防げます。 |
2. 玄関周囲の設備
■ カメラ付ドアフォンへの交換
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ドアフォンをカメラ付ドアフォンに交換することで、室内から来訪者を確認することができます。録画機能のあるカメラ付ドアフォンでは来訪者の画像を記録でき、また、留守設定にすれば留守中の来訪者もわかります。
犯罪を計画する者は顔が記録されることを嫌がりますので、防犯効果も期待できます。
以前は7万円もしたカメラ付ドアフォンは安価になり、左のものでは実売価格2万円くらいとなっています。防犯対策の一環としてお勧めできる製品となりました。
このほか、戸建住宅であれば、ドアフォンとは別に防犯用カメラを玄関周囲につけることも考えられます。 |
■ ドアアラームの設備
防犯器具として不用意にドアを開けると警報音と光で周囲に警報を発する「ドアアラーム」があります。ドア、ドア枠に簡単に取り付けできます。
ガラス破りに対して完全な防犯対策はありません。しかし、一般に侵入犯の多くが音を気にし、侵入に長時間かかるようだと諦めるといわれることから、下記の組合せが有効と考えられます。
1. クレセントに鍵取付
(1) 鍵付のクレセントに交換
既存のクレセントを鍵付のクレセントに交換する方法です。
クレセントはビスの取り付け寸法、引き寄せ寸法、クレセント高さから適合するものが限られます。適合するものがない場合は「(2)既存のクレセントに外付けの鍵装置を取付け」による方法を選びます。
ホームセンターによく売られている「セパ鍵付クレセント」は2009年2月調べで4種類
の鍵が付属して販売されていました。同じ鍵とすれば住居の各窓のクレセントの鍵をかけるのに面倒がいらないという発想ですが、ホームセンターで販売されていて空き巣犯がそれら
を容易に入手できる状況を考えると価格は安いですが、
現時点ではお勧めできません。また、クレセントのハンドルを着脱することで鍵の代わりとする製品が販売されていますが、同じハンドルがその製品全てに使える場合、空き巣犯が入手することを想定されますので鍵としての意味をなさないものとなります。このような観点から鍵付のクレセントの選定を行う必要があります。
図1 鍵付クレセントの種類
(2) 既存のクレセントに外付けの鍵装置を取付け
既存のクレセントに外付けする鍵装置として右の写真のものなどがあります。
右の製品はディンプル錠と普通の鍵の2種類が販売されています。後者は安価
ですが、同じ鍵を使った製品が多数販売されていることから、犯罪者が同じ鍵を持つ可能性を考えると多少価格は高くてもディンプル錠のものを入手方が安全と考えられます。 |
まどの守くん「窓の鍵」(日中製作所)
図2 クレセントへの外付け鍵 |
2. 窓用の補助錠取付
クレセントを開放されても簡単に窓が開かないように補助錠を併用します。開けるとき面倒に思うかもしれませんが、必ず鍵付のものを選択します。
【夏場の対策】
夏、風が入ってエアコンをかけなくても涼しい宵を過ごせる時があります。そこで「網戸で睡眠を」と思う時がありますが、網戸は防犯面では役に立ちません。このような時の防犯対策として、窓を大きく開放することはできませんが、クレセントの留め金を延長して風が入る状態でクレセントを掛けられるようにした金物があります(商品名は「ウィンドスペーサー」(Glory)。これだけでは防犯対策として不十分
のため、必ず窓の外にセンサーライトやセンサー・アラームを併用することが必要です。
夏場の外気取り入れ対策 |
図3 窓用補助錠(例)
・ 写真は鍵付でありませんが、
必ず、鍵付を選びましょう。 |
3. 防犯フィルム貼付け
ガラス自体が割られにくいようにクレセント周囲に防犯フィルムを貼ります。最低限、クレセント、補助錠に手が届かない範囲の防犯フィルムのサイズを選びます。
防犯合わせガラスに取り替える方法
も考えられますが、割られて開口ができるまでの時間を引き伸ばす効果があるのみであることを理解の必要があります。
4. 窓用警報装置
ガラスの割れを検出して鳴動する
窓用警報装置を取り付けます。従来のセンサーは窓が開けられたこととガラスが割れたことを別々のセンサーで検出する必要がありましたが、最新の製品はひとつの装置で両方の役割を果たすものが登場しています。下記のEC980を除いて1,500円程度で入手できます。更に安い製品もありますが、電池の使用できる期間が短いことから、必ず、ランニングコストを考慮して選ぶ必要があります。
5. 屋外用センサー・ライト、センサー・アラーム
窓からの侵入はバルコニーに入ってからとなります。マンションにおける空き巣被害の調査によれば1階や2階の低層階だけでなく、最上階も被害がでています。これは最上階であれば外からの目につきにくいという空き巣犯の考えによるものと思います。このため、バルコニーに人が立ち入ったことを検出して照明が点灯するセンサーライトや、人の動きを検出するセンサーアラームの設置も有効な防犯対策となります。
なお、窓の外は共用部となり、居住者がアンカーボルトなどを打って防犯設備を取り付けることはできません。このため、換気ガラリ(クーラーの配管を通す孔)の部分を利用して取り付けを行うか、あるいは窓枠の下の水切りのアルミ板の上に両面テープを用いて固定する方法となります。また、電源は換気ガラリの部分を利用して行うことになります。詳しくは管理組合にご相談ください。
■ もしも泥棒と遭遇してしまったら
最後に「もしも泥棒にはいられたら」について書きます。
- 泥棒にでくわしたら自分の安全を第一に、人相、着衣などを覚えておき、安全な状態になったら警察へ110番する。
- 泥棒が他の部屋にいるのを見つけたら、近所の家へ助けを求め、110番する。
- 現場は捜査のカギとなるので、開かれたドアやタンス、ちらかったものはそのままに、また、泥などが落ちていても掃いたり拭いたりしない。
■ おわりに
(財)都市防犯研究センターがホームページで公開している内容、国土交通省と警察庁がまとめた「共同住宅に係る防犯上の留意事項」(平成13年3月23日付)、国土交通省が策定した「防犯に配慮した共同住宅に係る設計指針」(平成13年3月23日付)は、共同住宅の防犯対策のガイドラインとして参考になります。是非、この内容をご覧ください。
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